戦国武将・武田信玄や、19世紀のフランス皇帝ナポレオン・ボナパルトにも影響を与え、約2500年経った今なお世界中に愛読者がいる「孫子の兵法」。その著者と言われている孫武の波乱の人生と、彼の兵法が用いられた激動の時代を、壮大なスケールで描いた「孫子≪兵法≫大伝」をBS初放送!
現代のビジネス書にも多く取り上げられ、第一線で活躍する多くの経営者たちが用いている孫武の戦術。その戦術が中国の春秋戦国の動乱期にいかに実戦で用いられ、現代まで残る最強の戦略と成り得たのか。戦術の背景にある孫武の思想と、彼をとりまく波乱の人間模様、激動の時代を、映画並みのクオリティでドラマティックに描いた。
出演は映画『レッドクリフ』2部作で曹操を演じたチャン・フォンイー中国の美人女優ジン・ティエン、『レッドクリフ』で劉備を演じたユウ・ヨン、映画『男たちの挽歌』のリー・チーホンなど、中国・香港の豪華スター陣。ファン待望の歴史スペクタクルがついに幕を開ける。(全35話・吹き替え)
紀元前6世紀の春秋戦国時代。呉の国の初代王、寿夢(じゅぼう)には4人の子供がいたが、その子供たちの代で王位継承問題は混乱し、暗殺も当たり前という凄絶な権力抗争が展開。結果、寿夢の長男、諸樊(しょはん)の息子である公子光が王位を奪取し、闔閭(こうりょ)と名乗る。一方、斉の国の百戦錬磨の武将、孫武は、家族の仇を討つという願いを長年抱き続ける伍子胥(ごししょ)に認められ、闔閭の部下になる。やがて孫武は武将として才能を認められていくが、呉では混乱が続き、孫武の行く手にも波瀾万丈の運命が待つ……。
約2500年前に斉(せい)の国の孫武が記したとされる世界最古の兵法書。それまでの戦法が運や迷信任せだったのに対し、孫子の兵法は「なぜ勝つか、なぜ負けるか」を経験と研究に基づいて分析した非常に合理的なものであった。
曰く、戦況を冷静に分析せよ、必勝の形を作れ、指導者のあるべき姿など、普遍的な思想が細かく記されている。諸侯が戦に明け暮れた春秋戦国時代、呉の王に仕えた孫武は卓越した軍事の才で連勝をもたらし、呉を大国へ導いた。
また、孫子の兵法は戦術書・戦略書でありながら、「戦わずして人の兵を屈するのは、善の善なる者なり」と説くなど、決して好戦の立場ではなく、戦争を冷静に見つめた思想が根底にある。この思想・普遍性が、古今東西の名将に愛読され、多くの戦場で実践され、現代でもビジネス書や人生哲学書として読み継がれている。
【孫子の兵法】全十三篇に分けられ、たった五千余の言葉から構成された内容は、充実し深く、戦争の規律、哲学、理論、謀略、政治、経済、外交、天文学、地理学など各方面に及ぶ。全世界の言語に翻訳され、現在でもビジネス界で活用されている。本作は、その世界的に有名な兵法書の生みの親、孫武(そんぶ)の波乱に富んだ半生を、史実をベースに描いた歴史大作ドラマ。製作費4億円、激しい戦闘シーンの数々もさることながら、前半では孫武(そんぶ)と無咎(むきゅう)、後半では孫武と妻・翟芊(たくせん)との心理戦も見逃せない。
クラウセヴィッツの『戦争論』とあわせ、東西の二大戦争書とも称されている『孫子兵法』は、三国志の英雄たちが戦の手本とし、ナポレオンや毛沢東なども実践に活用、武田信玄の『風林火山』も軍事篇からの引用であるなど、歴史を作ってきた英雄達の土台となっている。
No | あらすじ |
第1話 二つの謀反 |   紀元前515年、斉では有力氏族間の勢力争いが激化していた。孫武の叔父であり、斉の大司馬である司馬穰苴が政敵の罠によって官位をはく奪された。死の直前、司馬穰苴は孫武に、「斉を出よ」と言い残す。孫武と身重の妻 帛女は、逃亡の途中で、政敵の追っ手につかまるが、呉王の叔父で君子と名高い季札が通りかかり、助けられる。季札は孫武を旅の道連れに誘うが、公子光が王位を狙い謀反を企んでいるとの知らせを受け、急きょ呉へ引き返そうとしたその時、何者かに命を狙われる。その刺客とは公子光の側室の妹、漪羅(いら)であった。漪羅は自身の姉を王后にするべく、王位継承権を持つ季札の命を狙ったのだった。しかし、孫武は漪羅の命を奪わず、見逃して呉へ帰国させる。季札一行が、呉の都 姑蘇に到着すると、すでに公子光が計画どおり、謀反を起こし、兄の呉王 僚を倒した後だった。だが、光は自らの名誉が傷つくのを恐れ、叔父である季札に王位を譲ると申し出たのだった。 |
第2話 即位号令 |   季札は結局即位せず、姑蘇を出て田舎で隠居することになった。紀元前515年、公子光が即位して呉王闔閭(こうりょ)となった。季札は孫武に、闔閭のもとで、孫武が記した兵法に沿って闔閭の兵事を補佐するよう命じる。孫武は、自分は呉の軍事のために生きると決意する。即位後の闔閭は、眉妃に飽きて冷たい態度を取るようになった。眉妃は妹の漪羅に姑蘇を出たいと弱音を吐くが、漪羅は、故郷 鍾離の地を闔閭の力で取り戻すために、辛抱して王后の座をめざすよう説く。そんな中、孫武の兵法を闔閭の重臣である伍子胥が読む機会が訪れる。その優れた内容に感動した伍子胥は孫武と面会する。すぐさま闔閭に孫武を呉の大将軍とするよう求めるが、認められなかった。いずれ追い出されてしまうと不安な眉妃は、伍子胥に相談するが、伍子胥も漪羅と同様、耐えて王后になるよう眉妃を諫める。伍子胥の紹介をへて孫武にも策を請うが、後宮で用いるための策は出せない、と拒まれる。 |
第3話 死地に活路を開く |   呉王闔閭の寵愛を失い悲観する眉妃を救うため、妹 漪羅は孫武の元を訪れる。孫武は漪羅に“死を示し生を求める”という言葉を授ける。漪羅はその暗示を元に一計を案じた。眉妃が自殺を図ることで呉王の寵愛を取り戻そうというのだ。けなげな遺書を残し自殺を図る眉妃。すんでの所でそれを助ける漪羅。しかし、その様子に計略を感じた呉王は眉妃を冷宮に閉じこめた。漪羅は再び孫武を尋ねて知恵を借り、その言葉どおり眉妃は絶食を始める。機を見て漪羅が呉王に姉の命を救うよう嘆願したが、逆に王の怒りを買い、王は眉妃を死罪にしようとする。漪羅はそんな王を前にして、自分が身代わりになることを申し出た。慌てて王子 夫差や伍子胥がとりなすが、漪羅本人は頑として死を望む。死ぬことを恐れないその度胸に感心した呉王は眉妃を許し、漪羅を養女に迎え呉国の姫君とするのだった。 |
第4話 不戦屈敵の奥義 |   夫差は漪羅が誰に会っていたのか気になり問いかけるが、伍子胥に会っていたとウソをつかれ、冷たくあしらわれる。呉王闔閭は朝から眉妃と皿妃をそばにおいて酒を楽しんでいた。そこへ伍子胥が来て再度孫武の兵法を賞賛し、孫武に面会するよう勧める。闔閭はかなり酔った状態で孫武に接見し、孫武が兵法13篇について説明している間もいびきをかく始末。さらには王妃たちを指揮して兵法を見せるよう提案する。闔閭が兵法を単なる遊びとしかとらえていないことに内心腹を立てる孫武であったが、すぐに了承した。宮中に戻った闔閭は王妃たちに甲冑を与え、王妃たちもそれを着て喜ぶ。興に乗った眉妃は夫差から剣術を習っていると、将来王になったら漪羅を妻にすることを条件に関係を迫られる。危ういところで漪羅が現れ助かったが、漪羅は、夫差に言われたことは考えずに翌日の軍事訓練をしっかり受けるようにと、眉妃を諭す。翌日、広場では甲冑を身につけた女たちが集まり、訓練が始まる。漪羅はひとり部屋にこもり、鍾離侯だった父と母が、楚の令尹囊瓦の奸計にはまり処刑された日のことを思い出していた。 |
第5話 試される兵法 |   孫武の訓練が始まろうとしていた。女たちを率いるのは、闔閭の妃、眉妃と皿妃である。訓練に先立ち、「見事に訓練を成し遂げれば大将軍にする」と闔閭は孫武に約束する。しかし、軍事の経験などない女たちが軍隊として機能するはずもない。孫武の号令が空しく演習場に響く。やがて、軍法官を呼び出した孫武は、明白な号令に従わぬ隊長の刑罰を問う。それは「死罪」だった。隊長役の2名の王妃、眉妃と皿妃が引き出された。この意外な事態に、闔閭ら居並ぶ王族たちは唖然とする。慌てて孫武を止めようとする闔閭。しかし、孫武は「前線にあっては、たとえ大王の命令でも従えぬ場合がある。」とこれを退ける。全権を孫武に委任したばかりに、口出しの出来ない闔閭がその場を去り、2名の王妃の処刑は執行される。これを機に女たちは、孫武の号令にきびきびと従うのである。見事に訓練を成し得た孫武だが、この一件は、夫差、そして眉妃の妹 漪羅の恨みを買うこととなった。一時的に釈放を許された孫武に、妻の帛女は呉を出ようと告げる。 |
第6話 呉の名将誕生 |   眉妃と皿妃を処刑した孫武は、一家で羅浮山に向かおうとするが、夫差の一行に連れ戻される。 孫武は呉王闔閭に対し、王妃2人の殺害について、自分が殺したのは王妃ではなく隊長だった、と殺害の正当性を主張する。 実は闔閭は事前に孫武の兵法を読み、その内容に大いに感服していた。王妃2人を殺されたことに不満はあったものの、今後の天下制覇には孫武の能力が欠かせないと考えていた。大将軍に抜てきしたい旨を伝えると、孫武も快諾した。 大将軍就任の褒美として、屋敷や侍女・下僕のほかに、漪羅が下賜された。闔閭は孫武に、漪羅を若夫人としてめとるよう命じる。闔閭は、姉の眉妃を殺されて孫武を恨む漪羅を、孫武がうまく御せないようならば、国を治める手腕も当然ないはずと考えて、あえて漪羅を嫁がせたのだった。 漪羅は嫁いだその晩に、敵意をむき出しにして孫武を殺そうとする。孫武の妻 帛女がその場を収めたが、漪羅は出奔してしまう。 |
第7話 用間の計 |   王の命で孫武の第二夫人となった漪羅だったが、孫武を殺すことに失敗し出奔する。漪羅はある山の中へ刀鍛冶の名工 干将を尋ね、弟子となる。 そのころ、呉を悩ませていたのは先王の子、慶忌の存在だった。慶忌は楚との交戦中に父が闔閭に殺されたことを知り、軍を引き連れたまま楚に寝返っていた。呉王の座を奪い返すため反撃を狙う慶忌に対し、闔閭は弟 夫概に3万の軍勢を与え、戦いを挑む。しかし勇猛の士として知られる慶忌に夫概は苦戦。これに対し孫武は次の一手として“用間の計”を用いることを進言する。慶忌ひとりを暗殺し、慶忌軍をそっくり奪おうと言うのだ。この任を背負う勇士として、孫武は酒坊の主人で自分たちの世話係でもある要離を推薦する。 王に接見した要離は、慶忌に自分を信用させるため、自分の右腕を切り、さらには妻の楽女を殺してほしいと願い出る。王はその願いを聞き届け、町の人々の前で刑が行われるのだった。 |
第8話 慶忌の策略 |   帛女は、楽女が殺されたこと、要離の腕が斬られたことに夫孫武が関与していたことを知り、夫を激しくなじる。これに対し孫武は6万人の兵士とその家族を守るための戦略だと説く。 孫武は刀鍛冶の干将のもとに身を寄せている漪羅に会いにいく。剣を突き刺されても微動だにしない孫武に漪羅は一瞬心折れるが、姑蘇に帰る途中で馬車を降り逃亡する。 要離は慶忌の軍隊に身を寄せるが、なかなか暗殺を実行できず苦戦する。そこに申包胥という楚の大将軍が閲兵に来る。慶忌は楚の昭王の姉である霊樾姫との結婚を申し出る。 霊樾姫を母のように慕って育った昭王はこの申し出を断固拒否。しかし霊樾姫が、楚国の平和のために慶忌に嫁ぐと訴えると、泣く泣くこれを承諾した。 |
第9話 二人の勇士 |   鍾離で要離と接触した孫武は、火事の混乱のさなかに慶忌を殺害するよう指示。要離は指示どおりに慶忌の軍営に火を放ち、宝剣を慶忌の腹に突き刺した。しかし慶忌は要離のことを勇士と称賛し、呉に護送するよう配下の兵に申し渡す。そんな慶忌の姿に感銘を受け、己の行為を恥じた要離は、孫武の前で自害する。 裏で手を引いていたのが孫武だと悟った楚の将軍 申包胥は、すぐさま孫武と田狄を捕縛した。孫武の兵法書を愛読し、その賢明さを評価している申包胥は、孫武に楚への帰順を促す。しかし、闔閭に忠誠を誓う孫武に固辞され、2人は決闘を行うことに。大怪我を負った孫武は霊樾姫に助けられる。 慶忌と結婚するはずだった霊樾は、封地である鍾離にとどまっていた。そして孫武の命を助けた者には封地を与えると布告する。その布告を鐘楼の上で聞いていた者こそ、平民に扮した季札と漪羅であった。漪羅の復讐心を消し去りたい季札は、ある所へ行こうと漪羅に提案する。 |
第10話 孫武の裏切り |   楚の霊樾姫の出した「孫武を助けた者には封地を与える」というお触れに応じたのは、季札と彼の弟子となった漪羅だった。孫武は相変わらず意識不明の状態が続いている。季札は名医扁鵲から譲り受けたという処方せんに基づき、孫武を治療する。すると死んだように眠っていた孫武の体がわずかに動きだした。それが回復の兆しであると判断した季札と漪羅は、城と爵位を与えるという霊樾の申し出を辞し、旅立っていく。 そのころ呉では、闔閭の重臣 伯嚭が、霊樾の行宮で療養中の孫武は、すでに呉を裏切り楚に寝返ったと闔閭に報告していた。それを聞き激怒した夫差は、直ちに孫武の妻子を捕らえるべきだと主張。しかし伍子胥は、忠義に厚い孫武が呉に背くわけがないと訴え、孫武救出のため自分を楚に行かせてほしいと闔閭に進言する。すると闔閭は伍子胥ではなく、弟の夫概にその任務を与えた。 |
第11話 漪羅囚わる |   孫武は楚から呉に逃げ帰る。孫武を歓迎する闔閭。孫武に逃げられた霊樾は、なおも彼をあきらめきれない。9年後、霊樾は鍾離にやって来た漪羅を捕らえる。漪羅を奴隷にし、孫武をおびき出そうと企んだのだった。 呉では闔閭が楚の討伐を宣言していた。孫武は「まず、楚の同盟国を味方につけ、連合して楚を攻撃するべきだ」と説く。 ちょうどその時、小国の蔡が楚の囊瓦に包囲されていた。蔡の将軍 蔡鑑が、呉に援軍を求めに来る。闔閭はその願いを聞き入れ、孫武が2万の兵を率いて出発することになった。漪羅が捕らえられたことを知り、助けに行こうとしていた孫武だったが、蔡の危機を救うため断念する。鍾離で漪羅は「孫武は必ず助けに来る」と信じていた…。 孫武出陣を知った囊瓦は、蔡で孫武との対決を待つ。しかし、孫武が向かったのは、楚の養城だった。囊瓦は撤退し、楚へ向かう。蔡国は危機を脱し、蔡の君侯 昭侯が闔閭に礼を言うため、呉にやって来る。 |
第12話 三国同盟 |   「敵の謀略を阻み孤立させる」という孫武の策に従う闔閭は、蔡と唐を味方に引き入れることに成功する。一方、鍾離では漪羅の囚われの生活が続いていた。そんな折、鍾離に天然痘が蔓延し、霊樾の一人息子 楽濠もまた、天然痘に侵されていた。医師でさえさじを投げる天然痘に、霊樾はうろたえる。漪羅は霊樾に治療を申し出る。半信半疑の霊樾であったが、漪羅の煎じる薬のおかげで楽濠はみるみる快方に向かう。 鍾離で隙をうかがっていた孫武は、漪羅の救出に成功する。だが、漪羅は天然痘で苦しむ鍾離の民を救うため、鍾離へ残ると告げるのだった。霊樾の屋敷へと戻った漪羅は、楽濠の治療を最後まで続けることを条件に、鍾離の民の治療を始める。 その頃、楚の都、郢では、昭王が鍾離にいる姉の霊樾の身を案じ、鍾離へと駆けつける。ところが、昭王の姿を見た霊樾は、すぐさま都へ引き返すようにと、厳しく諭すのであった。 呉の都、姑蘇では、蔡と唐の協力を取り付けた闔閭に対し、孫武は楚への出陣を進言していた。楚への復讐心を抱く伍子胥は、先鋒隊として出撃を望む旨を闔閭に申し出る。 |
第13話 兵とは詭道なり |   呉・唐・蔡の連合軍10万人がとうとう鍾離に向けて出発した。その報は鍾離にいる霊樾と申包胥の耳にも届いた。郢にいた囊瓦は自軍を率いて応援に駆け付けているという。申包胥軍と囊瓦軍を合わせれば16万の大軍になる。漪羅は徹底抗戦を決意した霊樾に、鍾離の民を巻き添えにしないでほしいと懇請する。 一方、孫武は鍾離の手前60里の地点で、200里先の潜城に進行方向を変えた。囊瓦軍を申包胥軍と合流させないためである。潜城は楚の公子繁の領地だった。恐怖のあまり正気を失った繁を尻目に潜城を陥落させた孫武は、すぐさま弦城に移動する。 潜城に続き弦城を攻略した孫武は、夫概に夷城と夏州城を急襲するよう言い、自身を含む残りの軍を秘密裏に鍾離へ進ませた。孫武の計略にかかり、潜城から弦城、夷城、夏州城へ転々とさせられた囊瓦は、孫武への怒りをぶちまける。 そんな中、鍾離を守る霊樾は申包胥らを陽燧関に派遣し、連合軍を待ち伏せさせる。 |
第14話 奔走 |   陽燧関で呉軍を待ち伏せしていた申包胥軍に、山の左右から大軍が襲い掛かる。申包胥の待ち伏せを事前に察知した孫武が、それに先んじて兵を潜伏させていたのだ。予期せぬ敵の襲来に、申包胥軍は壊滅的な打撃を受ける。この大勝利に上機嫌の闔閭に対し孫武は、申包胥を追い柏挙へ向かうよう進言する。敗走する申包胥は囊瓦と合流すると見込んだ孫武は、柏挙こそが囊瓦との決戦の地になると確信したのだ。 一方孫武は、申包胥が鍾離城に残した食糧を回収すべく、呉軍と別れ兵1万を率い鍾離へ向かう。鍾離城の主、霊樾姫は刻々と近づいてくる孫武軍を、ただなすすべもなく城門の上から見守るしかなかった。すると突然、孫武軍の前に漪羅が立ちはだかる。そして漪羅は孫武に、鍾離の民を戦火に巻き込まないよう必死で訴える。 呉軍と楚軍の決戦は避けられないと思われたが、霊樾のもとに孫武から書状が届けられる。そこには、9年前に命を救われたことへの謝意とともに、霊樾に重大な決断を迫る内容が記されていた。書状を読んだ霊樾は郢に戻る決心をし、鍾離を去る。 霊樾は楚の危機を救うため、申包胥軍、囊瓦軍に加え、沈戊戌の軍を呼び寄せるよう伝え、決戦の準備を進める。 |
第15話 漢水での鬩ぎ合い |   漢水を挟んで対峙する楚軍と呉軍。楚軍は沈戊戌の軍が来るのを待って呉軍を挟み撃ちにする計画だ。その前に囊瓦に渡河させたいと考える孫武。呉の食料補給を断つために秘かに渡河した楚兵を、孫武は放置し、わざと補給を断たせる。楚を油断させる計略だ。孫武の思惑通り、囊瓦の配下たちは「この機に呉を攻めるべきだ」と進言する。しかし、囊瓦は動こうとしない。 呉軍の兵糧はあと3日分しかない。いらだつ闔閭。孫武は季札を呼び応援を頼む。季札の弟子として漪羅もやって来た。孫武は、季札・漪羅・蔡鑑・老兵 常を楚軍に送り込む。蔡鑑と老兵 常に下剤を飲ませ、呉軍内で下痢が流行っていると囊瓦に思い込ませるのだ。この計略のために命を落とす蔡鑑と老軍常。2人の命がけの計略の結果、楚の兵士たちはいっそう「呉軍は窮地にある。すぐに攻めるべきだ」といきり立つ。しかし、それでも囊瓦は「姫君に沈戊戌を待つよう厳命された」と言い、渡河攻撃をしようとはしなかった。 |
第16話 柏挙の戦い |   いまだ呉楚両軍の間に動きは見られない。そんな中、孫武は囊瓦に漢水を渡らせるため、本隊を撤退すると見せかけ、囊瓦を挑発する。孫武の読みどおりここを勝機と見た囊瓦は、いよいよ漢水を越え追撃を開始する。 孫武たちは、唐軍や蔡軍が潜伏している柏挙まで、囊瓦をおびき寄せ、一網打尽にする計画であった。 どこまで追走しても、呉の本隊に追いつけない囊瓦は、呉軍の撤退に策謀のにおいを感じ取り、進攻を中断する。あと一息のところで、進攻の止まった楚軍に対し、孫武は新たな策を講じる。それは、夫概を闔閭の影武者に仕立て、楚軍をおびき寄せるというものである。敵将である闔閭の登場に、勢い込んだ囊瓦はとうとう柏挙へとたどり着く。 いよいよ、囊瓦率いる楚軍と呉軍の決戦の火ぶたが切って落とされようとしていた。そんな中、孫武と闔閭は、夫概の心中に芽生えた野心への警戒を強めてゆく。 |
第17話 楚軍最強の勇将 |   囊瓦との会戦前夜、夫概の天幕に闔閭が現れた。夫概は兵の増強を再び願い出るが、闔閭は頑として首を縦に振らない。密かに王位を狙う夫概に対し、警戒を強めているのだ。闔閭は代わりに、従軍していた王妃の羽妃を夫概に与える。 しかし夫概の心は晴れなかった。八つ当たりする夫概に振り払われた羽妃は、その弾みで頭をぶつけ死んでしまう。狼狽した夫概は孫武に助けを求める。そして闔閭の天幕に同行させ、羽妃が闔閭への愛を貫くために自害したと報告して謝罪し、事なきを得る。 翌日、いよいよ戦いの火蓋が切って落とされた。孫武の策にはまった囊瓦軍は壊滅し、囊瓦自身も孫武に刺殺される。孫武が漪羅に代わって果たした敵討ちだった。呉唐蔡の三国連合軍は逃走した隗射を追い雍澨に向かった。そこには、ようやく同地に到着した楚軍最強の名将、沈戊戌が悠然と連合軍の来攻を待ち構えていた。沈戊戌はライバルである囊瓦を亡き者にするために、故意に進軍を遅らせていたのだ。隗射は沈戊戌を非難しつつ、最終決戦での先鋒を志望した。 |
第18話 戦火に咲く悲しみの花 |   楚の都、郢では囊瓦の死を知らされた昭王が悲嘆にくれる中、沈戊戌から、囊瓦の後任の令尹を早急に決めるべきとの伝言が届く。それは自らを令尹に任命せよという催促にほかならない。野心家の沈戊戌を疎ましく思う昭王だが、申包胥は、囊瓦亡き後に呉軍に対抗できるのはもはや沈戊戌しかいないと説得する。そして霊樾は、昭王が郢から離れることと、自らが呉の人質となって呉王闔閭に軍撤退を交渉することを提案するのだった。 一方、楚領内で長きにわたり転戦を続けてきた呉軍に疲労の色が濃くなっていた。また沈戊戌軍は遅々として攻め込んでくる気配もなく、先の見えない展開に不安の声も上がり始めている。そんな時、呉軍の千夫長5人が闔閭に決死の直訴を敢行する。「長い遠征で兵は疲弊し、守りが手薄になった国元は越の脅威にさらされている。早急に全軍あげて撤退すべき」というのだ。それを聞いた闔閭は孫武に考えを問い、進軍の決意を固める。 闔閭は和議に現れた霊樾を一蹴し、突撃を開始。沈戊戌を倒す。この“柏挙の戦い”を経て、呉軍はついに郢に攻め入った。 |
第19話 郢落城 |   楚軍を破った呉軍は郢に入城。大願成就に喜ぶ闔閭は、論功行賞を行う。孫武に一番手柄を与える闔閭。他の臣下たちにも褒美を与える。だがその褒美は、すべて楚から略奪して得たもの。楚の女たちまで褒美として家臣に分け与える闔閭に孫武は反発する。そして戦勝地での行為について書いた兵法を改訂することを決心する。 呉軍は戦勝に酔いしれていた。更なる領土拡大を狙う闔閭。一方、伍子胥は褒美として王妃と王宮をもらい、父と兄を殺した楚の先王、平王への復讐を果たしたと喜んでいた。そんな伍子胥に夫概は不満を覚える。闔閭から夫概に贈られた霊樾は、その夫概の欲望を巧みにくすぐる。夫概は王位に対する欲望を更に感じるようになっていた。 郢の民は呉軍に略奪され、女たちは悲しい境遇にあった。霊樾の身を案じる孫武は、夫概と碁の勝負を願い出て「勝ったら霊樾を自分にくれ」と言う。かつて命を助けてもらった恩を、孫武は忘れていなかったのだ。 |
第20話 悔い |   孫武は夫概に霊樾を逃すよう進言するが、霊樾は、孫武の厚意を拒む。 孫武が闔閭のもとへ行くと、闔閭は楚を省いた勢力図を見せた。そして天下を手中に治めるという大望を遂げるには孫武の力が必要であると告げる。 一方、伍子胥は平王の墓を暴き、その亡骸にムチを打っていた。その非道な有様に、楚の将軍である申包胥は我が身の危険を顧みずに飛び出す。申包胥になじられ、激高する伍子胥。だが、伍子胥の恩人の息子が現れて、申包胥の助命を嘆願し、伍子胥はこれを聞き入れる。 その頃、郢の城内では楚人の不満が頂点に達し、呉兵の襲撃事件へと発展する。これに怒った闔閭は、楚の象徴である九龍鐘の破壊を命じる。異を唱えた漪羅に激怒した闔閭は、ムチ打ちの刑を命じた。しかし、孫武は自身が代わりに罰を受けると申し出る。そして闔閭は孫武に罰を下すのだった。 その夜、王位への野心を抱く夫概は季札のもとを訪れ、自身の味方に引き入れようとするが、季札は拒否する。 |
第21話 小国の国威 |   負傷した孫武のために薬を買いに行く漪羅。だが孫武の妻であることが明らかになり、店主に門前払いされる。そこへ夫差が現れた。夫差は店主を罰しようとするが、漪羅の懇請を受けて店主を釈放する。だがそれは偽りだった。漪羅が現場を離れた途端、店主の目をえぐったのだ。漪羅は夫差の残虐さに恐怖を覚える。 郢で横暴を極める呉軍に嫌気が差した季札は、楚の地を離れた。漪羅は夫を支えながら生きていくことを決意する。語り合う孫武と漪羅。漪羅が恨みを捨てたことで、二人は初めて夫婦の信頼関係を構築する。 一方、逃亡中の楚の昭王と申包胥らは、随王に保護されていた。夫差は直ちに追跡、昭王の身柄を引き渡すよう随王に申し入れるが、楚の将軍・子期の機転により失敗に終わる。 孫武は随の同盟国である晋の来攻に備え、漪羅と国境地帯の濘坊に向かい、晋の袁統軍を征伐する。難を逃れた昭王は雲夢に身を隠し、援軍を得るため申包胥を秦に派遣した。 |
第22話 秦楚連合 |   秦の哀公に援軍を拒否された申包胥は、秦の宮殿前にひざまずき涙を流して楚国救済を訴え続けた。そんな申包胥の訴えは飲まず食わずの状態で7日7晩続き、ついに哀公の心を動かした。哀公は申包胥に『詩経』の一節である「無衣」の詩を送り、楚と共に呉を討伐することを約束する。 その情報は濘坊を守る孫武の耳にも届く。孫武は呉の将軍、呉壁の背中に「秦楚が連合した。雲夢に軍を派遣せよ」という内容の急報をしたため闔閭のもとに走らせる。知らせを受けた闔閭と重臣らは、早速対策を話し合う。すると闔閭の弟である夫概が兵を率い秦楚討伐に向かうと申し出る。闔閭は、己の罄郢剣を夫概に与え出陣を許す。 ところが、雲夢に急行せねばならぬはずの夫概は、濘坊にいる孫武の前に現れた。夫概の依頼で兵の激励に向かう孫武。同行した漪羅はそこで霊樾に再会し、言葉を交わす。夫概の一連の言動に不安を覚えた孫武は、呉壁を監視役として夫概軍に潜り込ませる。 |
第23話 夫概の野心 |   兵法書の改訂作業に励む孫武。かいがいしくその手伝いをする漪羅。そんな二人を闔閭が突然訪れ、秦楚の連合軍への対処について、孫武の意見を求める。孫武は闔閭が自分を重用しつつも、忠心に疑心を抱いているように感じる。 夫概が秦楚の連合軍を攻撃していないと知った孫武は、夫概の謀反を確信すると同時に、自分も闔閭に関与を疑われると予感する。孫武は危険を避けるため漪羅と田狄を姑蘇に帰すと、兵を集め郢へ向かう準備をする。 王位を狙う夫概がいよいよ行動を起こす。霊樾が使者となって楚の昭王のもとへ行き、秦楚軍は呉の姑蘇へ向かう夫概を追撃せず郢を攻めることで、昭王と合意。夫概はとうとう反旗を翻す。 姑蘇に戻った夫概は、終累を監禁して太子を廃する。一方、郢では闔閭が夫概の謀反を知り激怒していた。闔閭は夫差と伯嚭を姑蘇に差し向け、郢にいる呉軍を召集する。だが、戦勝の喜びに浸りきっていた呉唐蔡軍は、すっかり統率がとれなくなっていた。 |
第24話 偽りの王 |   秦の加勢を得た楚軍が郢奪還へと乗り出す中、呉軍の綱紀は緩み、統制を欠いていた。孫武は闔閭に対し、すぐさま郢を捨てて瀚玉関で待機するよう求め、秦楚連合軍の前後を挟撃する作戦を立てる。しかし、ようやく占領した郢を捨て切れぬ闔閭は、郢での決戦に加わるよう孫武に下命する。孫武は闔閭の命を危惧し、士気の高い秦楚連合軍へ対抗するべく策を講じ救出へ向かう。 一方、姑蘇では闔閭の留守を狙い、夫概が即位を宣言していた。知略に長ける孫武を味方に引き入れんと、夫概は孫武の留守宅を訪ねる。帛女と漪羅は、夫概に毅然として立ち向かうが、一人息子の孫馳を人質に奪われてしまう。 動揺する帛女に、漪羅は孫馳を救い出すと告げ、単身で王宮へと乗り込む。やがて、孫武からの言伝があるとして漪羅に耳打ちされた夫概は、慌てて孫馳を解放した。漪羅は孫馳の尻にあるトカゲのような痣が、夫概に災いをもたらすと告げたのである。夫概の信奉する易に関連づけた漪羅の機転が孫馳の危機を救ったのだった。霊樾は、夫概に見切りをつけ王宮を後にすると、孫武の屋敷へ向かうのであった。 |
第25話 撤退 |   夫概を見限った霊樾は、昭王に援助を求めることを名目に姑蘇を後にした。城壁には霊樾に望みを託す夫概の姿があった。 一方、郢の闔閭は秦楚連合軍に猛攻され、窮地に陥っていた。そこに孫武が現れる。蒲子虎率いる秦軍は、逃げる孫武を追い詰め殺害したが、それは孫武の影武者を務めた呉壁であった。孫武はその間に闔閭を救出し、呉へ足を進めていたのだ。昭王の郢奪還により任務を終えたとする蒲子虎は、秦に帰国する。 闔閭らより一足先に姑蘇に向かっていた夫差は、夫概が孫武に宛てた密書を入手した。それを読んだ夫差は、2人が共謀して呉を乗っ取るつもりだと考える。夫差にとって孫武は己の即位を阻む邪魔者だった。夫差は2人を姑蘇台に吊るし上げ、孫武の家人を連行させる。 あくまでも孫武を道連れにしようとする夫概。現場に駆け付けた伍子胥は、孫武を助けるために夫概を刺殺する。町に出ていて難を逃れた漪羅も馳せ参じた。孫武に罪をなすりつける夫差に対し、毅然とした態度で抵抗する帛女。苛立ちを募らせた夫差は孫武を殺すよう命じる。 |
第26話 疑いの果てに |   夫概の謀反に加担したとして夫差に捕らえられた孫武が、姑蘇台で斬首に処されようとしている。剣が今にも孫武の首に振り下ろされようとした瞬間、伍子胥が止めに入った。伍子胥は、夫差の理屈によればかつて夫概と戦術を語り合い、酒を酌み交わした自分も罪を問われるべきだとして先に処刑するよう訴える。逆上した夫差は伍子胥を捕らえ、再び孫武処刑の命令を下す。そこに呉王闔閭の帰還が告げられる。民衆に混じって姑蘇台を見守っていた漪羅は、闔閭の馬車に駆け寄り、孫武を助けてほしいと懇願する。夫差は姑蘇台に上がった闔閭に、夫概と孫武の共謀の証拠として、夫概から孫武に宛てたとされる密書を見せる。そこに書かれていた「呉を分かち合おう」という言葉に闔閭は激怒。さらに夫差は、孫武の家族も謀反に加担したとして一家全員の処刑を主張する。孫武自身も自ら無実を訴えるが、闔閭の胸の内は誰にも分からない。そこへ、漪羅が自分の命を懸けて孫武の無実を証明してみせると進み出て、自ら頭を打ちつけ気を失う。それを見た闔閭は、孫武を疑っているように見せかけたのだと話し、処刑を免ずる。 |
第27話 不戦の進言 |   越の太子、勾践は呉との国境を侵し略奪を重ねていた。闔閭は怒り越との開戦を決意する。対越戦の攻略法を尋ねようと、孫武の家を訪れる闔閭。しかし、孫武は悲惨な戦争を二度と繰り返すまいと考えていた。「戦わずして勝つ」、これこそ自分の兵法の極意だと確信する孫武。訪れた闔閭に対し、越との戦は回避するべきだと進言する。闔閭は激怒し、王宮に戻る。 越との開戦を群臣に宣言する闔閭。伍子胥は憂慮するが、もはや闔閭を止められないと考える。その王宮に孫武がやってくる。死を覚悟で闔閭をいさめに来たのだった。「戦いはやめ、越王の允常と和議を行うために自分を派遣してほしい」と願い出る孫武。しかし闔閭は、これ以上孫武の意見を聞くわけにはいかないと答える。処刑の剣が孫武の首に当てられ、夫差と伯嚭は、ここぞとばかりに孫武を責め立てる。 楚では、越王からの親書を受け取った昭王が、霊樾、申包胥らと協議していた。親書によると、越王は呉を攻めるべく準備を進めており、楚と結託して呉を挟撃したいというのだ。越と連合することで意見は一致し、霊樾は自らを越に派遣してほしいと申し出る。 |
第28話 休戦協定 |   孫武の懸命な説得により、闔閭は越との和議を了承する。翌朝、和議の使者として越へ赴く孫武に、漪羅は同行すると言い張る。やむなく同行を認めた孫武は漪羅とともに越に向けて出立した。 同じ頃、越の王宮では越王允常らが、楚越連合による呉討伐について朝議を行っていた。楚と同盟を結び、呉を討たんと唱える樊璞に対し、太子の勾践と文種は非戦を唱える。しかし孫武の扱いについて、文種が抹殺すべしとする一方で、勾践は越に引き入れようと主張し、非戦派の2人の間でも意見が割れていた。允常は、非戦を唱える勾践と文種に、楚の使者として乾城を訪れた霊樾を出迎えるよう命じる。 乾城は伝説の黄帝と炎帝が同盟を結んだ地である。今そこに、呉、楚、越の使者として、孫武、霊樾、勾践が季札のとりなしで顔を揃えていた。郢征服の屈辱を晴らしたい霊樾、呉の脅威を主張する勾践に対し、孫武は開戦、休戦のそれぞれの益を述べ、呉だけでなく楚越両国にとっても、休戦することが得策であると説くのだった。 |
第29話 野望の半ばで |   孫武、霊樾、勾践が顔を揃えた。楚を侵攻された恨みを孫武にぶつける霊樾。その様子を見た季札は、炎帝と黄帝が講和を結んだ地に赴くことを皆に提案する。深夜、孫武の投宿先に刺客が現れた。霊樾だった。霊樾を捕らえた漪羅は孫武の和平への思いを代弁し、霊樾を釈放する。数時間後に季札が案内した講和の地は、大河のほとりにあった。剣を捨てる孫武たち。呉楚越の3国は停戦を約束した。 8年後、越王允常が死去し勾践が即位した。天下制覇の夢を捨てきれない闔閭は、越侵攻を決意する。しかし孫武は頑として反対した。国王の喪中に侵攻すれば怒りを買う。義憤する兵ほど恐ろしいものはないからだ。孫武は必死の思いで闔閭を諫めるが、闔閭は一蹴し、夫差、終累らを率いて越に進軍する。 対峙する呉越両軍。突然、越の陣から裸の男たちが現れ、服喪中の越に攻め入った闔閭への恨みを口にし、一斉に自決した。あっけにとられた呉軍は劣勢となり、闔閭が勾践に刺されてしまう。夫差はその混乱に乗じて終累を殺害。駆け付けた孫武も見守る中、闔閭は夫差に孫武を罰さぬよう言い、息を引き取る。 |
第30話 王子即位 |   伍子胥は、闔閭の敵を討とうと意気込む。しかし孫武は、怒りに任せて戦ったところで今の呉軍に越軍を破る力はないと、伍子胥を諌める。伍子胥はこれを聞き入れ、呉軍は闔閭の亡骸とともに姑蘇へと戻る。 ついに夫差が呉王に即位。夫差はまず父の敵の越を討ち、楚、斉、晋を滅亡させ、中原の覇者となる野望を抱いていた。だがそれを実現するには、孫武の力添えが欠かせないことは明らかだった。 ところが当の孫武は体調不良を口実に、即位の祝いにさえ参じない。一線を退き羅浮山で隠居生活を送るというのだ。そんな孫武に敵意を抱く伯嚭は、夫差に孫武暗殺を提案する。しかし孫武の重要性を理解し、闔閭の遺言を重んじる夫差は、自ら孫武の屋敷に出向き、復帰への説得に乗り出す。孫武は隠居を宣言するも、迷いが断ち切れない。 姑蘇台で思いをめぐらす孫武のもとに伍子胥が現れる。伍子胥の説得にも応じない孫武。兵を育て、越を滅ぼして先王闔閭の敵を取るという伍子胥と孫武は物別れとなる。
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第31話 父の仇 |   羅浮山に着いた孫武一家。季札が迎える。孫武の息子、孫馳の妻となった依瑶は男児を出産するが、それと引き換えに命を落とす。 孫武は山で静かに暮らすことを望んでいたが、そうはいかなかった。伯嚭と、越の大夫、文種がそれぞれ贈り物を携えてやってくる。優秀な兵法家である孫武を自国の味方にしようとしたのだった。孫武は「もう訪問しないでほしい」と宣言。伯嚭たちはしぶしぶ帰る。戦で手柄を立てたいと望む孫馳は、生まれて間もない息子の孫星を置いて伯嚭を追いかける。
5年後。孫星と漪羅が何者かにさらわれる。孫武は、自分をおびき寄せようとする呉王夫差の仕業に違いないと考え、王宮に乗り込む。だが実は、孫武が越の側に付くことを心配した伯嚭が、独断で2人を人質に取ったのだった。誘拐したと孫武に疑われて怒る夫差。また盾ついたら今度は許さない、と孫武を追い返す。 その直後、夫差は伯嚭が漪羅たちを監禁していたことを知る。漪羅に軽蔑されたくない夫差は、すぐに漪羅たちを解放する。 伯嚭と伍子胥の貢献により、呉の国力は回復した。夫差は越の征伐を宣言する。だがそこに、孫武の姿はなかった。 |
第32話 臥薪嘗胆 |   羅浮山に隠棲する孫武を欠くまま、敵討ちに燃える呉王夫差は越への出兵を敢行し、越王勾践はわずかな手勢とともに会稽山へと追い詰められた。敗北を悟り自害しようとする勾践を、文種を始めとする重臣たちが押しとどめ、勾践は呉へ下る決意をする。 早速、文種は和議を結ぶべく伯嚭のもとを訪れた。最初は毅然と拒む伯嚭であったが、賄賂の約束と美女を前に、越の片棒を担ぐ結果となる。 先王闔閭の敵である越との和議に猛反対し、嘆く伍子胥を尻目に、夫差は越との和議を結ぶ。こうして、勾践の奴隷生活が始まった。夫差より犬の餌を食べるよう強要され、勾践は薪の上で眠り、苦い肝をなめる「臥薪嘗胆」の日々に、復讐を固く心に誓う。 一方、夫差は、孫武が兵法八十二篇を完成させたと聞き、伯嚭と孫馳にこれを入手するよう命じる。同じ頃、楚の霊樾と申包胥が、勢力拡大に意欲を燃やす夫差に危機感を抱き、孫武のもとを訪れていた。 |
第33話 亡国を招く愚挙 |   「楚に対して罪滅ぼしを」と説き付ける霊樾。しかし孫武が首を縦に振ることはなかった。そんな中、孫馳と伯嚭が羅浮山に現れる。孫武を姑蘇に連れ戻すためだった。霊樾を捕らえようとする伯嚭に対し、孫武は己の復職と引き換えに霊樾を釈放するよう要求する。 夫差は孫武を再び将軍府に住まわせた。監獄のような息苦しさに病に倒れる孫武。だが季札は孫武の体調悪化を見越していた。季札との会話により、孫武は健康を取り戻す。 勾践が夫差の奴隷となって2年余り、夫差の警戒心は日増しに弱まっていた。越出身の美女で西施と鄭旦、そして賄賂を受けていた伯嚭は、勾践を帰国させるよう夫差に進言。夫差は酔いに任せて勾践を放免する。 放免の報に接した伍子胥は急遽参内、「このままでは呉が滅びる」と夫差を痛烈に批判した。激怒した夫差は伍子胥を杖刑に処し、重傷を負わせる。 孫武が見舞いに訪れた。2人の老臣は分かっていた。勾践の釈放と楚への侵攻は亡国を招くことを…。 |
第34話 諫言 |   孫武と伍子胥は、楚への親征を優先する夫差の決定が呉を滅亡へ導くことを確信していた。そしてそれを諌めることが、自分たちの死を意味することも分かっていたが、2人そろって翌日の謁見に臨む覚悟を決める。 自宅に戻った孫武は、帛女、漪羅、孫馳と食卓を囲む。孫武は孫馳に酒をついでやり、意気揚々と出征しようとしている息子に理解を示す。すると孫馳は、孫武の書いた兵法八十二編と戦陣図九巻を譲ってほしいと申し出る。それを使って、夫差の天下統一に貢献したいというのだ。孫武は、「兵法の真髄を悟らない夫差やお前に渡すくらいなら焼いてしまったほうがましだ」と孫馳を一喝。そして「家で待っている母親のためにも絶対に帰って来い。戦場で死んではならぬ」と孫馳を諭す。 その夜、孫武は燃え盛る炎の前で思案に暮れる。全身全霊をささげて書き上げた兵法八十二編だが、それが夫差の手に渡れば最悪の事態を招くことは明らかだった。ついに孫武はそれらを火の中に投げ入れる。そんな孫武に対し、漪羅は不戦を進言しないよう、孫武を説得しようとする。 |
第35話 兵とは国の大事なり |   楚との開戦を宣言する夫差。反対する伍子胥に、夫差は自害を命じる。「呉は越に滅ぼされる」と予言して伍子胥は自害。孫武はその死を嘆き、「開戦すれば呉は滅亡する」と夫差に言い放つ。激怒する夫差は、「改訂した兵法を献上しろ」と孫武に迫る。「兵法は羅浮山にある」と言う孫武。夫差は伯嚭を監視につけ、孫武に兵法を取りにいくよう命じる。 羅浮山へ行く道中、季札と漪羅が現れる。2人の協力で伯嚭たちの監視から脱出した孫武は、帛女たちをつれ、呉を離れる。孫武は「自分の兵法は平和をもたらす兵法だ。後世でそれは理解される」と信じ、燃やした兵法をもう一度書き直す。そんな孫武を季札は「孫子」と呼び、敬意を表す。 夫差は開戦を強行するが、やがて勾践が姑蘇を占領。呉は滅び、夫差は自害する。呉楚越の戦いで、孫馳と、霊樾の息子楽濠も命を落とした。霊樾は、孫武の兵法が死を招いたと、孫武を責めるのだった。 やがて孫武は、季札の導きで孔子と老子に会う。2人の教えに触れ、孫武は改めて確信していた、「兵とは国の大事なり 死生の地 存亡の道 察せざるべからざるなり」。 |